COCORO STORIES

十文字さなえが、寝る前に書く公開日記。更新してない日は非公開日記書いてます。

君たちはどう生きるか

今さらですが、気になりすぎたので、ついに見てきた。

見終わった直後の感想は、これはすぐに消化できないぞ、というもの。

theジブリの描写も多くて(高い階段を駆け上るシーンやら、神殿のような建物やら)その点は満足だったけど、ストーリーを消化しきれず、4日間も経ってしまった。

全然まだ腹落ちしていないけれども、ひとまず今思っていることを書いてみようと思う。

 

まずは話の流れとして思い出せるものを書いてみる。

母を亡くした東京の少年が、父と一緒に田舎に引っ越す。田舎には、母の妹であり以後継母となる女性と、その館(母の生家でもある)があり、少年はそこで暮らすこととなる。

館の敷地内には廃墟となった塔があり、謎のアオサギによってその塔に導かれる少年。

塔は、母と継母の叔父にあたる人物がかつて住んでいた場所であり、叔父は塔の中で消えたとされていた。

ある日少年は、妊娠し安静状態にあった継母が、ひとり塔に向かうのを目撃する。

継母がアオサギにさらわれたと感じた少年は、継母を助けるため、館のばあやと共に塔に潜入する。

塔の中で案の定アオサギに出会えるものの、継母は別世界にいると告げられ、少年とばあやは別世界へ向かう。

その世界は叔父が作り出した世界であり、少年のいた世界とは別の時が流れる世界であって、少年はそこで、少女時代の母と若いばあやに出会う。

彼らやアオサギと協力し、継母を見つけるものの、元の世界に戻る前に別世界の崩壊が始まってしまう。

崩壊しかけた別世界から継母を救い出し、少年は元の世界へ帰還する。それと同時に塔が崩れ落ちる。

というのが事実ベースのストーリーである。

 

ここからは、映画を見て考えたことを。

まず、別世界は叔父の創造した世界であることは間違いない。叔父は、今にも崩れそうな石を積むことで、この世界を創っていた。世界が常に緊張状態にあること、1か所がバランスを崩すと全体が崩れることを、この積み石は表しているのだろう。

別世界には、溢れかえったインコと、次の命の元となるワラワラ、ワラワラを食べる宿命を持ったペリカン、それに多くの死者がいる。世界が、どうしようもなく対立をはらんでいることを、ワラワラとペリカンの関係が示している。死者は殺生ができないとされており、生きることは他者を殺すことなのだと伝えてくる。インコは、多数勢力の恐怖を示しているのだろうか。叔父が作り出した世界は、かつては適度なバランスが保たれていたのだろうが、時間が経つうちにバランスが崩れ、インコがあふれかえってしまった。別世界の崩壊をもたらすのも、インコの王である。偏りが世界を壊すことを示しているのだろうか。

別世界の主である叔父は、少年に世界を受け継いでほしいと伝えるが、少年は自分に悪意があることを理由に、それを拒否する。悪意とは、少年が自分でつけた頭の傷のことである。新しい母親ができること、新しい学校に放り込まれること、それに葛藤する少年の心に全く気付かない父親、少年は様々な心の葛藤を、自傷という行為で表した。少年の、人としての過ちである。

叔父はおそらく、清らかな人であったのだろう。悪意にまみれた世の中に怖くなり、塔に閉じこもって自分の理想とする別世界を作り出してしまった。叔父だからこそ、これまで別世界を保ち続けられたのかもしれない。しかし、別世界は本物の世界と通じている。少年や生母、ばあやのように、外の世界からやってくる人がいる以上、その影響を受けざるを得ず、徐々に別世界のバランスは崩れていく。そしてついに、バランスが崩壊する時がやってくる。

少年は、別世界を継承することを拒否した。叔父のような美しい心がないことを自覚していたからこそ、閉じこもることはできないと判断したのだと思う。

新しい家族、学校、生母が忘れられていく悲しみ、どうしようもなく環境の変化に巻き込まれていく少年が、自分の弱さや悪意ときちんと向き合った上で、どうこの状況を受け入れるのか、受け入れてどう進んでいくのかを、描いた作品なのだと思う。だからこそ少年は、継母が自分を嫌いであることを十分に知った上で、それでも継母を母と呼び生きていくことを決めた。

閉じこもるのではなく、自分の弱さやずるさと向き合い、その上でどう状況と向き合うのかを自分で決める、それが「君たちはどう生きるか」という題に繋がるのではないか。

 

ここからは、どうしてもわからなかった部分。

まず、子供の誕生をどう描きたかったのかがわからない。なぜ継母は別世界にさらわれたのか。別世界で子供を産むことが何を表すのか、なぜ産屋に入ってはいけないのか、インコはなぜ妊娠している継母を食べられないのか。

別世界で子供を産むことで、悪意にさらされない子供を誕生させる、ということなのだろうか。産屋に入るというのは、まっさらな子供を悪意にさらすということか?

次に、少年はなぜ別世界を「不吉」と言ったのだろうか。墓地の石と同じ素材の石が積まれていることに嫌悪感を表していたが、どういう意味なのだろう。

それと関連して、あの墓地は誰の墓地なのだろう。少年のことを若きばあやが守ってくれたため、墓地の主は消えたようだが、あそこには何がいたのだろうか。「我を学ぶ者は死ぬ」(だっけか?)と墓地の門には書かれていたが・・・。

 

一応、このくらいは整理できたか。ここまで書くのに1時間はかかった。再放送があれば、必ずまた見ようと思う。

 

芸術に触れるのは本当に重要だ。そして、それを咀嚼する過程が好き。私は芸術家ではない(なれなかった)けれども、芸術を受容し、考えて、せめて生き方だけでも芸術的に生きていきたいと、夏目漱石を研究したあの日から、いつも思っている。